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神戸地方裁判所 平成8年(ワ)2302号 判決 1997年8月06日

原告

中部貨物有限会社

ほか一名

被告

田内智之

主文

一  原告らと被告との間で、原告らの被告に対する別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務の元金が、金六六万三五四七円を超えては存在しないことを確認する。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

原告らと被告との間で、原告らの被告に対する別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務が存在しないことを確認する。

第二事案の概要

一  本件は、別紙交通事故目録記載の交通事故(以下「本件事故」という。)に関し、自動車損害賠償保障法三条による責任を有する原告中部貨物有限会社(以下「原告会社」という。)及び民法七〇九条による責任を有する原告市村勇(以下「原告市村」という。)が、被告に対し、既に被告の損害はすべて填補されていると主張して、本件事故に基づく損害賠償債務が存在しないことの確認を求める事案である。

二  争いのない事実

1  交通事故の発生

別紙交通事故目録記載の交通事故が発生した。

2  責任原因

原告会社は、原告車両の運行供用者であるから、自動車損害賠償保障法三条により、本件事故により被告に生じた損害を賠償する責任がある。

また、原告市村は、本件事故に関し、自車を発進させるにあたり、左後方の安全確認を怠った過失があるから、民法七〇九条により、本件事故により被告に生じた損害を賠償する責任がある。

三  争点

本件の主要な争点は次のとおりである。

1  本件事故の態様及び過失相殺の要否、程度

2  被告に生じた損害額

四  争点1(本件事故の態様等)に関する当事者の主張

1  原告ら

被告は、原告車両が枝木車両の右側至近距離に並んで停止していたにもかかわらず、原告車両の動静及び安全を確認しないまま、漫然と助手席のドアを開けた過失がある。

そして、右過失の割合は、五割を下回ることはない。

2  被告

被告が枝木車両の助手席のドアを開けた時、原告車両は枝木車両のはるか後方にあった。

その後、原告車両が枝木車両に並列接近して停止し、さらに発進した際に、原告車両の左後部と枝木車両の助手席のドアとが接触した。

したがって、本件事故に関して被告の過失はない。

五  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

六  本件の口頭弁論の終結の日は平成九年六月二五日である。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件事故の態様等)

1  甲第二号証、原告市村勇及び被告の各本人尋問の結果によると、本件事故の態様に関し、前記争いのない事実のほかに、次の事実を認めることができる。

なお、原告市村勇及び被告の各本人尋問の結果のうち、左記認定事実に反する部分は採用することができない。

(一) 本件事故の発生場所の西行き車線は片側二車線の道路であるが、その幅員はそれぞれ約三・二メートルである。

また、路端側車線の南側には路側帯が設けられている。

なお、右道路には、駐車禁止の交通規制がある。

(二) 訴外枝木は、本件事故の発生場所の南側にある東灘区役所に所用があったため、右道路の路端側車線に枝木車両を駐車させ、自らは車両から降りた。

なお、枝木車両が駐車したのは、路側帯の左端に沿ってではなく、路端側車線の中央部よりもわずかに左側に寄った位置であり、路側帯にはまったくかかっていなかった。

(三) 被告は、枝木車両から降りようと思い、助手席ドアをわずかに開けて後方を確認したところ、道路中央側車線を原告車両が進行してくるのを認めた。そこで、そのままの状態でいたところ、原告車両は、枝木車両と並列して停止した。

なお、原告車両は、中央側車線と路端側車練との区分線からわずかに左に自車の左側部分をはみ出して停止した。

(四) その後、原告車両が発進する際、原告車両の左後方と枝木車両の助手席のドアとが接触した。

なお、右接触時、枝木車両の助手席のドアは、同車両の右側面から約四〇センチメートル右側に開かれた状態であった。

2  右認定事実によると、原告市村は、すでに助手席のドアがわずかに開かれていた枝木車両に自車を並列させて停止させたのであるから、自車を発進させるにあたっては、左後方の安全を十分に確認すべき注意義務があったことは明らかである。しかも、原告車両が停止したのは、中央側車線と路端側車線との区分線からわずかに左に原告車両の左側部分をはみ出した位置であったから、右注意義務に違反した過失の程度は重大である。

他方、枝木車両が道路上に駐車した理由は、訴外枝木らが東灘区役所に所用があったためというのであるが、右道路には駐車禁止の交通規制があったから、枝木車両はそもそも道路上に駐車すべきではなく、被告も、道路上で枝木車両から降りようとすべきではなかった。また、枝木車両が駐車したのは、路側帯の左端に沿ってではなく、車線の中央部よりもわずかに左側に寄った位置であり、その位置も相当ではなかった。さらに、被告は、原告車両が枝木車両に並列して停止したのを認めたのであるから、助手席のドアを、わずかにせよ開かれた状態のままに放置するのではなく、完全に閉じた状態に復すべきであった。

したがって、これらの点につき被告には過失相殺の対象となるべき過失があるということができる。

そして、原告市村と被告の右両過失を対比すると、その過失の結果、相手方に一方的に危険を及ぼす点で、原告市村の過失の方がより大きいというべきであり、具体的には、原告市村の過失を六割、被告の過失を四割とするのが相当である。

二  争点2(被告に生じた損害額)

1  損害

(一) 治療費 金一八万三五九〇円

原告らは、被告の治療費が金一八万三五九〇円である旨主張し、被告は、少なくとも右金額の治療費が発生した旨主張する。

したがって、右金額の限りでは当事者間に争いがないところ、これを超える治療費が発生したことを認めるに足りる証拠はない。

(二) 休業損害 金一六二万七九七二円

原告らは、被告には、賃金センサスによる一日あたり金一万〇七九〇円の割合による実通院日数七〇日間の休業損害(合計金七五万五三〇〇円)が発生した旨主張し、被告は、通院期間中は一日あたり金一万八〇〇〇円の割合による休業損害が発生した旨主張する。

そして、甲第三号証の一ないし五、第四号証の一ないし五、被告本人尋問の結果によると、本件事故当時、被告は満二五歳の男性であったこと、被告は、頚部挫傷、右手打撲等の傷病名で、平成八年六月一〇日から同年一〇月二八日まで、慈恵病院に通院していたこと(実通院日数七〇日)、本件事故当時、被告は日雇いのアルバイトとして肉体労働に従事していたこと、被告は通院期間中は就労していないことが認められる。

したがって、被告の休業損害を算定するにあたっては、賃金センサス平成六年度第一巻第一表の産業計、企業規模計、男子労働者、学歴計、二五~二九歳に記載された金額(これが年間金四二二万五八〇〇円であることは当裁判所に顕著である。)を基準に、通院期間である平成八年六月一〇日から同年一〇月二八日までの一四一日間就労することができなかったとするのが相当である。よって、被告の休業損害は、次の計算式により、金一六二万七九七二円となる(円未満切捨て。以下同様。)。

計算式 4,225,800÷366×141=1,627,972

なお、被告の主張する一日あたり金一万八〇〇〇円の割合による休業損害を認めるに足りる的確な証拠はない。

また、右認定の被告の傷病名、就労内容、及び、被告が現実に通院期間中は就労していなかったことに照らすと、原告らが主張する実通院日数だけではなく、通院期間のすべての日について休業損害を認めるのが相当である。

(三) 通院交通費 金二万一〇〇〇円

被告は、通院一回あたり少なくとも金三〇〇円の通院交通費を要した旨主張し、被告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、これを認めることができる。

したがって、通院交通費は、次の計算式により、金二万一〇〇〇円である。

計算式 300×70=21,000

(四) 慰謝料 金六一万円

原告らは、被告の慰謝料としては金六〇万円が相当である旨主張し、被告は相当額の慰謝料を求める旨主張する。

そして、本件事故の態様、被告の入通院期間、その他本件に現れた一切の事情を斟酌すると、本件事故により生じた被告の精神的損害を慰謝するには、金六一万円をもってするのが相当である。

(五) 小計

(一)ないし(四)の合計額は金二四四万二五六二円である。

2  過失相殺

争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する被告の過失の割合を四〇パーセントとするのが相当であるから、過失相殺として、被告の損害から右割合を控除する。

したがって、右控除後の金額は、次の計算式により、金一四六万五五三七円となる。

計算式 2,442,562×(1-0.4)=1,465,537

3  損害の填補

被告の損害のうち金八〇万一九九〇円の填補があったことにつき、被告は明らかに争わない。

よって、過失相殺後の金額から右金額を控除すると、金六六万三五四七円となる。

第四結論

よって、原告らの請求は、主文第一項記載の限度で理由があるからこの範囲で認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条但し書き、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

交通事故目録

一 発生日時

平成八年六月一〇日午後三時五分ころ

二 発生場所

神戸市東灘区住吉東町二丁目三番二八号先路上

三 争いのない範囲の事故態様

右発生場所の西行き車線は、片側二車線の道路である。

訴外枝木孝吉(以下「訴外枝木」という。)は、普通乗用自動車(三重三三ゆ五八一〇。以下「枝木車両」という。)を運転し、右発生場所の西行き車線の路端側車線で枝木車両を停止させた。

他方、原告市村は、大型貨物自動車(鳥取一一か六四一三。以下「原告車両」という。)を運転し、右西行き車線の中央側車線の枝木車両の右側で原告車両を停止させた。

そして、原告車両が発進しようとした際、わずかに開いていた枝木車両の右側前部の助手席のドア(枝木車両はいわゆる「左ハンドル」の車両である。)と原告車両の左後部とが接触した。

なお、被告は、枝木車両の同乗者である。

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